なぜ、生きる?

悩み、苦しみ、生きづらさを抱える皆さんと共に 移住や転職、不登校、大好きな本についても綴っていきます。日常のなかでのふとした学びや気付き、ココロの栄養のキッカケになれれば幸いです 

52才妻子持ち、転職☓☓回、未だに無職… どうする、俺? #9 ー記憶にございまぜんー


「あんた、あそこで倒れてたんだよ…」

母は窓の下の方に微かに見える、衝立で囲まれた駅前の喫煙所を指差した。

 

「え、そんな事あったっけ…」

必死で自分の内部メモリーを探しても全然見当たらない

 

「何年前だったっけねぇ、お前が帰ってきた時、

お父さんの墓参りに、私が花買ってくる

から、ここで待ち合わせねって、戻ったら…

あそこで倒れてたんだよ」

母の視線がわずかに遠くなる。

 

「俺、酔っ払ってたとかじゃなくて?」

 

「バカ、いくら息子でも、そこまでだらし無かったら私、蹴飛ばすよ!!」

 

「何か職場でよっぽど辛いことでもあったのか

なんてその時は思ってたけど、まあその後、

起き上がって無事、墓参りにはいけたから…」

 

 

しばしの沈黙がテーブルの二人席を覆う

 

僕には、どんなに探してもその記憶がなかった

あまりにも当時辛すぎたから、自動でデリート

してしまったのか…

 

「まあ、いいわよ、そんな事もあったけど、

今こうして、お互いに生きててそれなりに

健康でお酒を飲めるんだから」

 

心の底から情けないし、申し訳ない、

そして、ありがたいと思えた。

母の情愛に…

 

酔いは思ったより早くまわった。

 

行きとは少し違うルートを辿り、同級生の近況やご近所のあれやこれや

をひっきりなしに母は話し続けた。

僕は一方的にそれを聞き続けてた。

 

家につく、4LDK「うさぎ小屋」と称されても

反論しようもない建売住宅。

 

その家を買うために、両親は職業人としての

人生を全うしてくれた。

 

そのためだったのか、父はあまりにも早く

この世から突然フェードアウトしてしまった。

「急性心不全」という原因で50才で…

 

奥の仏間兼居間のテレビのある部屋で

母としばし、ゆっくりする。

 

話は尽きない、母の方が…

「水飲む?お茶いれようか」と何かと

世話をやいてくれる

 

僕は「気持ちだけありがたくいただきます」

なんて息子の特権をフル活用

 

まだ、「寝ないの?」なんて、息子が寝る部屋へ

向かうのを見届けないと気が済まないらしい

 

「じゃ、そろそろ寝るよ、おやすみなさい」

「おやすみ」

 

二階の和室が今夜の寝る部屋だ、

寝具は完璧に整えられている。

 

雨戸もキチンと閉じられている

40年くらい前は毎朝、全部の雨戸を開けるのが

僕に与えられた役割だった、

でも、ある時を境にその役割をサボりがちに

なってしまった。

 

その因果なのか?

 

まあいい、明日は妹が来る、昼食を食べながら母

と三人でとことん話そう